ログイン颯馬が戻ると、1号室のドアは、少しだけ開いていた。
元々あの有名プロデューサー炎の別荘だというだけあって、部屋は広い。二段ベッドを三台入れてもまだ余裕がある。ベッドの横には人数分の簡易クローゼットも設置されていた。
室内では、すでに三人が荷物を広げていた。
笑い声と、どこか浮ついた空気。合宿初日特有の、独特な高揚感。
「ただいま」
颯馬が声をかけると、すぐに反応が返ってきた。
「颯馬くん、おかえり!」
オレンジ色の髪を揺らして、そらが駆け寄ってくる。
近い。距離感がやたらと近い。
つぶらな瞳で見上げられて、颯馬は思わず視線を逸らしそうになった。
「同じ部屋だね! これから30日間、一緒に頑張ろうね!」
「ああ、よろしく」
「颯馬くん、僕もよろしくね。 あー眠い……今日はなんだか疲れちゃったよ」
ふわふわした茶髪の彼――日和(ひより)は、タレ目でいつもぼんやりしている。高身長なのに華奢で、少し不思議な雰囲気の男だ。
彼方がベッドに飛び乗りながら笑う。
「俺は上の段にする! なんか秘密基地みたいでワクワクするな!」
赤い髪に大きな目。元気がありすぎて、部屋に入った瞬間から空気が明るくなるタイプだ。
水琴は静かに自分の荷物を手に取り、部屋を見回していた。
ベッド割りは、自然と決まっていった。
上段:彼方・日和
下段:そら・水琴・颯馬
颯馬のベッドは水琴の隣だ。
「ちょっと、颯馬くん」
ベッドの中に入った水琴が、カーテンの隙間からこちらを覗いた。
目が合う。
逃げる暇もなく、視線を絡め取られる。
「ちょっと中、ええ?」
手招きされた。
「ああ……」
断る理由もなく、颯馬は水琴のベッドに入った。
カーテンが閉まる。外の気配が、一瞬で遠くなる。
……近い。思ったよりもずっと。
同じベッドの上に、二人。膝が触れそうな距離。
「作戦会議、しよか」
水琴がごく小さな声で言う。息がかかりそうな距離で。
「で、何すればいいんだよ」
颯馬も声を潜めた。
「自然に距離詰めるだけやで。せやけど、初日からいきなりくっつき過ぎやと変に思われるかもしれへんから、少しずつにしよ」
そう言いながら、水琴は颯馬をじっと見ていた。
値踏みするみたいに。
自然と、颯馬の視界にも水琴が映る。
間近で見る水琴の肌は白くてスベスベで、毛穴とかニキビなんて無縁みたいに思えた。
「今日はとりあえず、2人でひそひそ話するぐらいでええで」
「……わかった」
頷いた瞬間。
ほんの一瞬だけ、水琴の指が、颯馬の手に触れた。
――わざとだ。
わかってる。
わかってるのに。
体が反応する。
じんわりと、そこだけ熱を持つみたいに。
「颯馬くん、緊張してはる?」
「してねえよ」
即答したけど、声が少し硬かった気がする。
水琴は、ふっと笑った。
「そっか」
それ以上は何も言わない。
でも、その沈黙が、妙に長く感じた。
話が終わり、カーテンを開けると、彼方がこっちを見ていた。
「なんか楽しそうだな〜。秘密の話?」
「ただの世間話だよ」
颯馬が答えると、水琴も軽く笑って流した。
彼方は「ふーん、そうか〜」と言っただけで、視線を手元のスマホに戻した。
「ねえ、さっき渡されたこのスマホ、普通にネットも見れるんだよ! でも視聴履歴は全部スタッフがチェックしてるって言う話だったから、変なサイト見ないように気を付けないとね!」
どうやら特に深くは疑っていないようだった。
その後、そらが颯馬のベッドの近くに寄ってきて、にこにこしながら言った。
「颯馬くん、一緒にゲームやろ! この部屋のテレビ、大きいし、ゲーム機も付いてるんだよ!」
無邪気な笑顔。
距離の近さも、水琴と同じなのに。
「いいよ。でも夕食まで短い時間だぞ」
なんだこれ――と、颯馬は思う。
同じ“近い距離”なのに、全然違う。
日和がベッドに横になりながら、のんびりした声で言った。
「みんな元気だねえ……僕は少し休むよ」
彼方はベッドに座ったまままた話題を変えた。特に誰も反応しなくても、一人で勝手にしゃべっている。
「この合宿所、なんかリゾート感エグいよね! みんな、窓の外見た? オーシャンビューってやつだよ! 俺、こういうのすごいワクワクする!」
水琴は自分のベッドに腰を下ろし、静かにみんなの様子を見ていた。
夕食の時間になると、さっき配られた専用スマホに一斉メッセージが送られてきた。全員のスマホが一斉に鳴ったので、颯馬は思わずビクッとしてしまった。彼方は「おわっ! ビビった〜!」と大声をあげていた。
皆でぞろぞろと階段をおり、1階のダイニングに向かう。
広いダイニングルームの掃き出し窓からは、庭の芝生と、夕焼け色に染まる海が見える。その絶景に「おーっ」という歓声がどこからともなく上がる。
なんとなく寝室が同じグループごとに席についたが、水琴が颯馬の隣に腰を下ろすと、その隣に別室のメンバーがやってきた。
「みーくん、隣、いい?」
背の高い、モデルみたいにスタイルのいい男。イッセイだ。イギリス人とのハーフで、髪は黒いが肌や瞳の色素が薄く、顔の彫りが深い。
「ちょっとイッセイ、その呼び方やめてよ」
水琴が慌てた声をあげる。
イッセイは返事も聞かずに水琴の隣の椅子を引いて座った。
「なんで? 可愛いからいいじゃない。それに、呼び慣れてるから今さら変えられないよ」
「せやけど、恥ずかしいわ」
「何、何? 二人、元から知り合いなの?」
向かいの席の彼方が興味津々で尋ねる。
「うん。俺たち子役時代からの知り合いで、昔はよく一緒に遊んでたんだよ」
イッセイがにこやかに答ええる。
「そっか、イッセイくんも子役俳優出身だったね」
「イッセイでいいよ。でも水琴と会うのは1年ぶりぐらいかな。水琴がなかなか連絡くれないから」
「もう、イッセイってば、そういうのええから!」
和やかな雰囲気で進む会話を聞きながら、颯馬はふと思った。
そんなに仲がいいなら、自分ではなくイッセイとBL営業をすればいいのに。なぜ自分なんだろうか?
納得がいかない気持ちになりながら、視線をテーブルの上の料理に向ける。
通いで来てくれるというシェフが用意した夕食は、栄養バランスの整ったメニューだった。
メインは鶏むね肉のハーブ焼き。皮はパリッとしていて、肉汁がじゅわっと溢れる。高タンパクで低脂肪だ。
付け合わせはブロッコリーとアスパラガスの蒸し野菜に、きのこのオリーブオイルソテー。
炭水化物は玄米ご飯が控えめに入っていて、汁物は鶏ガラと野菜のあっさりスープ。
デザートはヨーグルトにブルーベリーをトッピングしたもの。
食べ盛りでも満足できる量なのに、脂肪と糖質はしっかり抑えられているらしい。
そらは颯馬の向かいに座り、自分のチキンを小さく切って食べながら、嬉しそうに言った。
「みんなでご飯食べるの、なんか楽しいね」
その笑顔は純粋で、初対面なのにすでに打ち解けているように見えた。
人懐っこい子なんだな。
美容オタクを公言しているまひろは、フォークを動かしながら「低カロリーで美容にもいい感じ!」と満足げだった。
夕食が終わった後、2階に戻ろうとする皆を響が大きな声で呼び止めた。
「ねえ、みんな! お風呂の順番、どうする?」
階段を登りかけていたヤツらは足を止めて振り返る。
「風呂は1度に5人ぐらい入れるみたいやから、部屋ごとに時間を決めて入ろうや」
瞬多が言い、葉月がすぐに賛成した。
「いいね! ジャンケンで順番決めようよ!」
3部屋の代表でジャンケンをした結果、1号室が一番最後になった。
「俺たちが最後か……まあ、ゆっくりできるからいいよな?」
颯馬が言うと、日和がのんびり頷いた。
「僕、トレーニングルームの隣のシャワー使おうかな……みんなと一緒に入るのはちょっと……」
別室のカゲトラも「俺も」と短く同意した。
お風呂待ちの間、リビングは賑やかだった。
大型テレビではバラエティ番組が流れ、トランプや卓球台で遊ぶメンバーもいる。
颯馬が大きなL字型ソファーの端に座ると、水琴が自然に隣に座ってきた。
「颯馬くん、少し寄っていい?」
水琴だった。
断る間もなく、肩が触れる。さっきより、自然に。
――いや、自然に見せてるだけか。カメラの位置を、ちゃんと意識してる。
プロだな、こいつ。そういえば、子役俳優だったって言ってたっけ。
「……いいよ」
頷いた瞬間。
水琴の顔が、ぐっと近付いた。
耳元に、ほとんど触れてる。
「笑って」
掠れた、小さな声。
颯馬は、言われた通りに口元を緩めた。
その瞬間。指先が、絡む。
颯馬の手を取り、手のひらを重ねる。
「颯馬くんの手、大きくてかっこええな」
囁く声。耳に、息がかかる。
……これも全部、演出。わかってる。
なのに。
頭の奥で、別の顔がちらつく。
――炎さん。
あの人も、こうやって。簡単に距離を詰めてきた。
甘い声で。逃げ場をなくすみたいに。
……似てる。やり方が。
でも。違う。水琴は、ちゃんと“俺を見てる”。
あの人みたいに、どこか上からじゃない。それに、誰でもいいわけじゃない。――たぶん。
ふいに、聞きたかったことを思い出す。
「なあ、水琴」
「なに?」
颯馬は水琴の耳元に口を寄せ、手のひらで口元を隠しながら、カメラに音声を拾われないよう小声で尋ねた。
「なんでBL営業の相手、イッセイじゃないんだ? なんで俺を選んだ?」
それを聞いた水琴は意味深な笑みを浮かべる。
そして、同じ仕草で颯馬に囁き返す。
「言うたやん。颯馬くん、俺のタイプやから。仲良うなりたくて」
あのモデルみたいなハーフイケメンよりも?
そう思ったが、颯馬は口には出さなかった。
でも、なんだか胸の中がくすぐったいような感じがした。
やがて風呂の順番が回って来た。
颯馬たち1号室のメンバーは風呂場に向かった。
ドアを開けると、ほわっと湯気が顔にかかる。檜のいい香りが鼻をくすぐった。
「うぉーっ! 温泉宿みたいだな、ここ!」
彼方がはしゃいで真っ先に服を脱ぎ始めた。
颯馬も続いて脱衣所に入った。
隣で水琴がシャツのボタンを外している。細い指が器用に動く様を見て、なぜか鼓動が早くなった気がした。
「……颯馬くん、どうしたん?」
目線を感じ取ったのか、水琴がちらりとこちらを見る。濡れたように光る瞳がまっすぐで、颯馬は慌てて目を逸らした。
「いや、なんでもない。脱衣所も広いなと思って」
脱ぎかけたTシャツを勢いよく引っ張りあげる。
広い檜の浴槽は1度に5人ぐらいは余裕で入れるサイズで、熱めのお湯がたっぷりと張られていた。
体を洗い終えて先に湯船に入ったそらが背伸びをして叫んだ。
「あーっ! いいお湯加減! 気持ちいい〜!」
颯馬も浴槽に足を踏み入れた。思った以上に熱いお湯が肌に染み込んでくる。肩まで浸かると、全身の力が抜けていく感じがした。
「お疲れさま」
隣で水琴が微笑んでいる。
湯に浮かぶ彼の白い肌は、さっきよりも血色が良くなってほのかにピンク色に染まっている。鎖骨のラインが妙に目に焼き付く。
「おう、お疲れ」
素っ気なく返事したつもりだが、声が裏返らないか心配だった。自分でも分かるほど緊張している。
そらが横から覗き込んできた。
「颯馬くん、すごい筋肉あるね。鍛えてるの?」
「筋トレは毎日やってるよ。ブレイキンって逆立ちとかするから、体重支えるための筋肉がないと」
「わかる! 僕も中学と高校で体操部だったから筋トレ欠かさなかったよ。でも最近はサボりがち……」
テヘッと可愛らしく舌を出す。けど、そうはいっても、そらも童顔に似合わず意外と肩や腕に筋肉が付いている。
「そらって、なんか身軽そう」
「え〜、それって小さいからってこと?」
「そういう意味じゃないよ」
颯馬は内心でホッとする。そらが話題を逸らしてくれたおかげで助かった。水琴と二人きりだったら、何を話せばいいか分からなくなるところだった。
彼方は浴槽の中で突然立ち上がった。
「明日からのレッスン、楽しみだよな! 俺、新しいアクロバットの技練習したいんだよな~!」
湯船から頭一つ飛び出ている。彼方の体格もいかにもスポーツマンらしい。鍛えられた二の腕が引き締まっている。オタクなのにスポーツマンって、こいつもかなり不思議なヤツだ。
「颯馬くん」
湯煙の中で水琴の声が聞こえる。振り向くと、彼がこっちをじっと見ている。濡れた前髪が額に貼り付いている。
「俺らも何か目標作らへん?」
唐突な提案に、颯馬は思わず眉を上げる。
「目標?」
「うん。例えば……合宿中お互いをサポートし合う、とか」
水琴の表情がやけに真剣に見えるのは、気のせいだろうか。
「いいけど、なんで?」
「だって、ライバルやって思ってたら……自然な演技ができんかもしれへんやん。せやから、二人とも一緒に合格できるように」
颯馬の耳元にそう耳打ちしてから、彼は右手を差し出した。水滴が滑らかな肘を伝って落ちていく。
「……ああ」
反射的に握り返した。意外にも力強い手だった。一瞬の触れ合いなのに、何故か胸がドクンと鳴った。
「ありがとう」
京都弁のイントネーションで言って、水琴は優雅に微笑む。
「じゃあ僕も目標決めた!」
突然そらが割り込んできた。小さな手を挙げて宣言する。
「みんなで仲良く頑張ろう!」
まるで幼稚園児のような純粋さ。その無邪気さが緊張をほぐしてくれる。皆、ライバルでもあるというのに。
「おう! そりゃもちろん!」
彼方も大声で返事をする。
水琴が再び颯馬の方を向き直す。今度はもっと近い距離で。湯気の中で彼の顔が曇って見えたり鮮明になったりする。
「明日からが本番やね」
「ああ」
短い返事しかできなかった。それでも水琴は満足そうに笑う。まるで全て計算済みのように。
「……颯馬くん」
また名前を呼ばれた。今度は何だろう?
「もし困ったことがあったら言ってな。力になるから」
思いもよらない言葉に、颯馬は目を見開いた。こんな風に言われるとは思わなかった。戸惑いと感謝が入り混じる感情。
「ありがとう」
自然と素直な言葉が出た。
颯馬は水琴から視線を外し、浴槽に肩まで沈み込んだ。体は十分に温まったけれど、心の奥底ではまだ落ち着かない部分がある。
「そろそろ上がる?」
水琴の問いかけに頷く。体を伸ばしながら立ち上がった。
風呂を出て、1号室に戻った。
ベッドに入る準備をしながら、そらがまた颯馬の近くに来て小さな声で言った。
「颯馬くんって、なんだかお兄ちゃんみたいで、そばにいると安心するなぁ。よかったら、明日も一緒にいてくれる?」
「もちろん。困ったことがあったらなんでも言えよ」
日和はすでにベッドに横になり、のんびりした声で「みんなおやすみ〜」と言っている。
彼方はベッドのカーテンを閉めながら「明日も楽しみだな〜」と呟いていた。
水琴は自分のベッドに腰を下ろし、静かに颯馬の方を見ている。
颯馬はカーテンを閉めながら、ふと思った。
この30日間、どうなるんだろう。
まだ始まったばかりなのに、なんだかずっと高揚感が冷めない。
数か月後。 ステージ袖まで届く歓声を聞きながら、颯馬は衣装の裾を引っ張った。 何度確認しても、特に乱れているところはない。それでも手持ち無沙汰になると、つい触ってしまう。「颯馬、さっきからそれ何回目?」 彼方に指摘され、颯馬はようやく手を離した。「そんな触ってた?」「めっちゃ触ってる。緊張してる?」「してないとは言わない」「俺はしてる!」 彼方は隠す気もないらしく、両手を広げてみせた。「ヤバい、めちゃくちゃ楽しみ! 早く出たい!」「お前のそれ、緊張ちゃうやろ」 瞬多が笑いながら突っ込む。「遠足前の小学生やん」「昨日ちゃんと寝たし」「そういうとこまで小学生やな」「うるさいな!」 二人のやり取りを聞きながら、凱が大きな声で笑う。 少し離れたところでは、龍也がイヤーモニターをつけたり外したりしていた。「これ、ちゃんと聞こえてるよな?」「さっき確認しただろ」 カゲトラが言う。「でも急に壊れるかもしれねえじゃん」「本番前に何回確認しても、壊れる時は壊れる」「そういうこと言うなよ!」 龍也が振り返る。「余計緊張すんだろ!」「自分から聞いたんだろ」「お前さあ!」「二人とも、本番前に喧嘩するなって」 颯馬が止めると、龍也が「こいつが変なこと言うからだろ」と訴えてくる。 この光景にも、もうすっかり慣れてしまった。 あの離島で初めて七人のユニットに分けられた頃は、こんなふうになるとは思っていなかった。 七人は今日、オーディション候補生ではなく、一つのボーイズグループとしてステージに立つ。 Top of the rainbow。 それが、自分たちで考えたグループ名だった。「そういや
その頃、最終審査ライブの生配信では、本番が終わったあともコメントが途切れることなく流れ続けていた。@miu_39水琴くん途中から足庇ってなかった??? 大丈夫???@kyoto_luvやっぱりみーくん怪我してたよね? 結果発表のあとずっと座ってたし心配すぎる@7iro_star水琴、最初の曲は普通だったのに二曲目ちょっと動きおかしかった気がする。最後まで踊り切ったのすごいけど無理してたよね?@pinkmoon_05みーくん合格めちゃくちゃ嬉しいけどまず病院行って😭@somakoto_forever颯馬と水琴ずっと応援してきて本当によかった。二人とも名前呼ばれた瞬間普通に泣いたし、最後ずっと手を繋いでて尊かった❤@blue_sky728最初はBL営業おもしろwくらいで見始めたのに気づいたら二人とも本気で応援してた。30日間見てきてよかった@SOMA_1pick颯馬に投票しました。仲間思いで、最初から最後まで周りを見て動けるところが好きだった。デビューおめでとう@mikoto_1pick私は水琴に入れた! 歌もダンスも表情も全部好きだけど、この30日でどんどん仲間を大事にするようになったのが一番の理由@ryuya_beat龍也に投票した!! ラップとボイパで一発で好きになった。名前呼ばれた瞬間叫んだ@kanata_runrun彼方くんに一票! パフォーマンス中の楽しそうな顔が好きすぎる。見てるこっちまで楽しくなる@shunta_oshi瞬多に投票しました。ラップももちろんだけど、合宿中ずっと空気を明るくしてくれて
巨大スクリーンに七人の顔と名前が並んでも、颯馬にはまだ現実味がなかった。 水琴の手を握り、龍也たちに背中を叩かれ、何万人もの観客から名前を呼ばれている。 それでも、自分が明日から「デビューする側の人間」になるという事実だけが、身体から少し離れた場所にあるようだった。 やがて颯馬は、少し離れた場所に立つ五人に目を向けた。 日和は拍手をしていた。 いつもの穏やかな笑顔を保とうとしているのに、目からは次々と涙が落ちている。 隣にいたミンソクが肩を抱くと、とうとう顔を伏せた。 響は唇を強く噛んでいた。泣くまいとしているのか、何度も瞬きをしている。 まひろは最初から隠そうともせずに泣いていた。「悔しい……マジで悔しい……」 それでも両手を叩き続けている。「でも、おめでとう……ほんとに……」 イッセイはしばらく俯いていたが、やがて顔を上げると水琴を見た。 目が合う。 イッセイは何も言わず、笑って拍手を送った。 水琴の目から、また涙が溢れた。 颯馬は自分が合格した喜びだけに浸っていられなくなった。 この一か月、十四人で同じ場所を目指してきた。 そのうち二人は、自分たちのしたことによって最後の舞台から姿を消した。 そして今ここにいる十二人のうち、七人が選ばれ、五人は選ばれなかった。 最初から分かっていたことなのに、名前が読み上げられてしまえば、その境界はあまりにもはっきりしていた。 結果を読み上げた男性が一礼してステージを去ると、炎が十二人の前に立った。『まず、十二人ともお疲れさま』 炎は候補生たちを見渡した。『結果は出ました。選んだのはここにいるお客さんたちと視聴者のみんなです。でも、俺からも最後に少しだけ話をさせてください』 会場が静まって
結果発表の時刻が近づくと、候補生たちは再びステージ袖に集められた。 そこに、そらと葉月の姿はない。 水琴は救護スタッフから足をつかないよう念を押され、ステージ袖までスタッフに車椅子で運ばれてきていた。結果発表中も無理に立たせないことが決まり、舞台上には水琴用の椅子が用意されている。「ほんまにこれで出るん?」 水琴が車椅子を見下ろして苦笑する。「歩くよりいいだろ」「ステージ出る直前までこれって、なんか恥ずかしいわ」「血まみれの靴で二曲踊った人が今さら何言ってんだよ」「それとこれとは別やん」 いつもの調子で返してくる声に、颯馬は少しだけ安心した。 けれど水琴の手は、膝の上で強く組まれていた。 颯馬自身も同じだった。 結果が出る。 三十日間の合宿も、東京に戻ってからの練習も、今日のステージも、すべてに答えが出る。「緊張するなあ」 彼方が両手を擦り合わせる。「ライブより緊張する」「分かる。踊っとる時は自分でなんとかできるけど、もうなんもできへんからな」 瞬多が客席側を見た。 龍也は落ち着きなく何度もその場で足を動かしている。「まだ?」「じっとしろよ」 凱に言われても止まらない。「無理。こうしてないと死ぬ」「死なねえよ」「分かんねえだろ」「結果待ちで死んだ奴聞いたことないぞ」 彼方が吹き出した。 その少し離れたところで、カゲトラだけは壁にもたれて黙っていたが、組んだ腕の指先が一定の間隔で動いている。 颯馬はそれを見て、カゲトラも緊張するのだと初めて知った。「炎さん、ステージ入ります!」 スタッフの声が飛んだ。 十二人の表情が変わる。 モニターには、再びステージへ向かう炎の後ろ姿が映っていた。
炎のライブ後半、最後の曲が終わった。 ステージを覆っていた照明が落ち、炎が深く頭を下げると、ドームを満たす拍手と歓声が舞台裏まで届いた。 このあとには審査結果の発表があり、その後、炎はアンコールでもう一度ステージに戻る予定になっている。そのため、いったん短い休憩が設けられていた。 救護室で再度処置を受けた水琴は、足を床につけないよう椅子に座っていた。「ほんまにもう血ぃ止まったって」「だからって歩くなよ」「颯馬くん、今日それ何回言うん?」「みーが何回も無茶するからだろ」 そのやり取りを聞いていた彼方が笑う。「颯馬、今日は水琴のお母さんみたいになってるよ」「恋人通り越しとるやん」 瞬多まで加わり、水琴が吹き出した。 いつの間にか、二人の関係がBL営業ではなく実際に恋人だということは、メンバー内では公認になっていた。 流出映像の件はノーコメントで貫いているが、颯馬も水琴も、恋人同士のように言われたところでもう否定はしない。「俺の方が風呂掃除うまくできるけどな」「そこ張り合うところ?」 龍也が呆れたところで、ステージ側から歓声がひときわ大きく聞こえた。 炎が舞台を降りてきたらしい。 颯馬が廊下の先を見ると、汗を拭きながら歩いてきた炎にスタッフが駆け寄っていた。 何かを耳元で伝えている。 炎が足を止めた。 別のスタッフがタブレットを差し出す。 画面を見た炎の眉が寄った。 さっきまで何万人もの観客を沸かせていた人間と同じとは思えないほど、その表情が変わる。「……何かあったのかな」 彼方も気づいたらしい。 炎はタブレットを操作し、映像らしきものを何度か確認していた。 やがて顔を上げる。「そら呼んできて」 近くにいたスタッフへ告げた。 颯馬は水琴と顔を見合わせた。「そら?」
二曲目の最後の音が鳴り止んだ。 七人で決めた最後のポーズを崩さないまま、颯馬は荒い呼吸を整えようとした。照明の熱で額から汗が流れ、衣装の背中は肌に張りついている。 一瞬遅れて、客席から歓声と拍手が押し寄せた。 何万人もの声が重なり、足元のステージまで震えているようだった。 やり切った。 島で何度も繰り返し、東京に戻ってからも細部を直し続けた二曲を、最後まで七人で踊り切った。 颯馬が隣を見る。 水琴も笑っていた。 いつもの、人目を引く華やかな笑顔だった。 けれど次の瞬間、その身体がわずかに傾いた。「水琴?」 颯馬が近づくより先に、水琴は体勢を戻した。 まだステージの上だ。 客席から見れば、少しよろめいた程度にしか見えなかったかもしれない。 七人で並び、観客に向かって頭を下げる。『ありがとうございました!』 声を揃えた。 再び大きな拍手が降ってくる。 水琴は最後まで笑っていた。
土曜日の朝。 颯馬がまだ寝ていると、ベッドの外から騒がしい声が聞こえてきた。「海行こうぜ海ーっ!!」 彼方の声だ。おかげで目が覚めてしまった。「朝から元気だなぁ……」 日和が眠そうに呟く。 颯馬がカーテンを開けると、部屋の中はすでに休日モードになっていた。そらはオレンジ色の髪を揺らしながら水着姿ではしゃいでいるし、彼方はシュノーケルを振り回している。「颯馬くん! 早く準備して!」「お前ら早すぎだろ……」 まだ頭がぼんやりしている。 その時。「おはようさん」 水琴がベッドのカーテンを開けた。 オーバーサイズのタンクトップは襟が大きく開いていて、鎖骨や胸元があらわになっ
昼食を終えた後、メンバーたちは再びスタジオへ集められた。 鏡張りの広い部屋。冷房は効いているのに、どこか空気が張り詰めている。「ここからはユニットごとに分かれて練習してください」 スタッフがそう告げると、自然と二つのグループに分かれていった。 颯馬は、自分とは別ユニットになったそらと目が合う。 そらは少しだけ寂しそうに笑った。「颯馬くん」「ん?」「ユニット離れちゃったね」
合宿三日目の朝。 沖縄の強い陽射しが、ダイニングの大きな窓から差し込んでいた。「はい、今日は掃除当番決めるからなー!」 瞬多がホワイトボード片手に声を張る。 朝食を食べ終えたメンバーたちは、リビングに集められていた。「はあ? 掃除なんて面倒くせーことやりたくねえし」 龍也が短く刈り上げた金髪の後頭部を掻きながら、不満そうに唇を尖らせる。 それを嗜めるような声音で、瞬多が説明する。「せやけど、この合宿所には掃除してくれるスタッフはいてへんやん。寝室は各自でやればええけど、お風呂やトイレなんかの共用スペースは誰がやるか決めなあかんやろ?」 そこで一旦言葉を区切り、目線で響やミ
画面に映るのは、沖縄の離島にある豪華な合宿所のリビング。夜8時を少し回った頃だった。 この『炎プロジェクト』は、予選からテレビの深夜番組でまとめ放送されていたため、すでに一定のファンがついていた。最終選考の離島合宿が24時間生配信されるようになってからは、特に若い女性層の視聴者が急増している。 現在の同接数は約8,200人。コメント欄がほどよい速度で流れ続けていた。 大きなL字型ソファーの中央に、成田颯馬と桐生水琴の姿がはっきりと映し出されている。水琴が颯馬の肩に軽くもたれかかり、ピンクがかった金髪が颯馬の黒いTシャツに触れていた。【コメ